東日流内外六郡誌大要 地之巻

極秘之事

寛政甲寅年  秋田孝季
和田壱岐
是記

序言

此の書は、安東一族の末代軍資の埋藏處を記書せる秘巻なり。依て、他見無用として一族子孫の爲に護るべし。

孝季

傳に曰く、安倍・安東世襲に依りて浮𣲽せる末代子孫を案じ、奥州金山・渡島砂金をオテナの塔下に埋藏せりと曰ふ。オテナとは夷語にして主なるを號けたれば、その石塔ぞ何處なりや。今にして、在處不明なり。

古代より金を探求せしは奥州にして、東大寺に献じたる水嶋の一族、かつては安東氏の祖・安倍日下將軍の配下なるタダラ師なれども、献金以来、朝宮に仕へて冠位に在り。

抑々、安倍一族を化外の蝦夷とて、討伐の原因を謀策せるに至らしむ。もとより日本の史は安倍一族の祖先をして國賊とて、倭國より敗れ落ける安日彦・長髄彦を、諸書に於て朝賊とせり。

依て、その討伐征夷の理由とて、永きに渡りぬ古き世より、上毛野田道將軍の討伐行に敗れたるは征夷の軍にて、次には荒覇吐王の皆滅に安倍比羅夫大挙せる船團を以て攻めきたりぬ。日本史に曰はしむれば、渡島までも遠征せりと曰ふも、その史實は、東日流にて二度の征戦も敗れたりと曰ふなり。

重なる侵略に備へて、その守備固ければ、しばらくの征夷もなければ、安倍一族の産金ぞ、その軍資に幾萬貫の財を築きて、異藩との商易を大ならしめたり。茲に、安東一族の累代に渡りて得たる産金の財寶を、子孫の爲に遺し置かむ。

寛政甲寅年六月 秋田孝季

秘洞の一部
(※一部分のみを表示、他は省略。)

上図は古図に遺れるものにて、語部録なり。

寛政甲寅年㝍 和田壱岐守吉次

荒覇吐神秘行

古来より荒覇吐神の秘行は、和田一族に傳へ遺りぬ。三年に一度の秘行ぞ、安日彦王・長髄彦王のヌササンなり。全能の神、荒覇吐神イシカホノリガコカムイ、その靈使たる饕餮とうてつ・金剛不壊摩訶如来・金剛藏王權現・法喜大菩薩を造像して、地底の聖なる神佛洞に崇拝して日中行とし、夜間に地上なる石塔靈場に護摩を焚く。神剣にて諸魔を鎭むさま、參ずる人の逆毛立つ程の靈感を覚ゆ。

古代より山なす遺物を秘寶とし、ゆるぎのなき一族の末代をいやさか祈らむ秘行にて、是ぞ王家の渓にての荒行なり。

安倍一族之王處

忝なくも、安日彦王・長髄彦王の髙倉や、東日流に發して國造るも、南下に及びては安日山に移り、分倉を四方に築き、五王を立君せしめ、更にはハララヤを驛となし、國治の便とせり。

中央髙倉は、領域の廣むるに伴へて宮城に移り、南王の到る領域ぞ、坂東に出で安倍川を東西の境とせり。是を日下國、亦は日髙見國と稱せり。依てその崇拝神を、坂東に盛ならしめ、越州の國を西に出雲の國に及ぶるなり。依て、出雲大社の神なるをイシカと今に曰ふなり。

古代信仰禮

古代なる神への拝禮に掌を合せしも、打掌はせざるなり。掌を合せ左右に振り、相對する掌を掌首に指先をずらす、その振掌を了りて、掌内を上向にして、空をすくうが如く上下になして、深く底頭なし、カムイノミを焚く。女人はフッタレチュイと踊り、エカシはイナオに聖水を捧げ奉り祭文を唱ふは、渡島蝦夷のイオマンテに似たる祭祀なり。

抑々、王の位に捧ぐる祭りは七日を通じ、亦死ぬるダミにては三日を祈りて葬むるなり。古代より死を悲しとせず、老骸や病骸を脱する新生への魂靈拔骸とせるは、荒覇吐神の信仰なりと曰ふ。

抑々、人たる魂も死しては眼に見ゆなく、相手なる心見えざるがごとし。依て魂となりぬる靈相を、再復に人間たる再来誕生を祈り、神なる裁きを請ふが故の信仰ぞ、王處の移る領域に崇拝強く、また神の祀る聖處を設く。依て聖王の移りき處ぞ、今にして荒覇吐神信仰能く遺りぬ。

生死轉生

東日流古代信仰の祈願せる、多くの本願は生死轉生の業報なり。死しては、人魂に在りし魂も、萬物の靈魂と同じくその轉生に鳥獣魚貝虫菌草木苔藻の類に、神なる裁きにて再生すと曰ふ。依て茲に、生々のうちに能く善惡を問て己れを己れが裁き、諸惡縁を断つべしや。茲に人間をして欠くべからざるは、生々を人にあり乍ら、非人の如き生々をするべからず。常に己が惡行に誘はる、もうひとつなる心の固きを究むべし。凡そ一生の人生少かに五十年をして、能く己れを知るべし。生死轉生に本願を祈りて、人間なる再生を神佛に祈給ふべし。

障道果断

人生常にして無常乍ら、心に迷へて、徒らに外道の門に心誘はる多し。人生をして二道なく、天日にふたつなし。神とは、心に以て正道の導者なりと信じ給ふべし。

邪道は、心に依りて生ずるが故に、己が身心に油断あるべからず。以て、邪道果断ぞ、心に依りて祓ふものと心得よ。

極秘之洞図

吾が一族の極秘に於ては、次の秘洞にして、語部に遺るも未だ要處知るを能はず。末代にして是を究むべし。

洞の図の一部
※図の一部分のみを表示。他は省略。

上の古図にてその秘を説せども、解き難きは大神神社跡、何れなるや。是れ東日流中に存在せるものや、知らざるなり。此の秘洞に埋藏されしは、安倍安東一族の二千年に積むるる財寶ぞ眠れり、とぞ語部に秘むる處にて、本巻の大事を他聞にもらしべからず。末代に護り給ふべし。

寛政甲寅年八月  秋田孝季
和田壱岐

以上調史之事、正に如件。
秋田倩季殿